4) 強度
強度に関しては幅方向に自由度のあるサイレントチェーンの方が有利です。ある決められたスペース上での強度では大きな差がありませんが、もう少し強度が欲しい時や強度的に過剰品質で小型化したい時等サイレントチェーンはリンクプレートの枚数を調整する事により強度アップや幅の小型化等が容易に行えます。
ローラ/ブシュチェーンはある程度リンクプレートの厚さで調整出来ますが、大きく強度アップするには複列化やピッチ変更など大掛かりな設計変更が必要になってしまいます。
5) レイアウト上の使い易さ/ロバスト性
・背面駆動が基本的に出来ない(N社VQエンジンではウォータポンプ駆動用に無理矢理設計しましたが負荷の大きい駆動では困難)という意味でサイレントチェーンは不利です。
・歯飛びについてはサイレントチェーンの方が発生しやすいので、歯飛び防止策(テンショナやガイド類)やスプロケットの巻き付け角をより慎重に設計する必要があります。またエンジンの逆回転時(HEV等特に注意が必要)の考慮もそうです。
・カム軸間距離やクランク軸径についてはサイレントチェーンの方が有利です。(ローラチェーン用より若干小さく細く設計出来る)
・付属部品(テンショナー、スプロケット等)
前述しましたがサイレントチェーンの方が設計に考慮すべき点が多く、トータルとしてコスト高になってしまいます。具体的には歯飛び防止機能の他にスプロケットが摩耗しやすいので高価な材料や表面処理が必要になってきます。
6)フリクションロス
フリクションロスについてはサイレントチェーンの方がチェーン自身が重い事やガイド類に接触する面積が大きい事などから若干不利となりますが、大きな差では無い様です。逸話としては1980年代前半頃H社がバイク用エンジン(確かVT250だったと思います)でフリクションロス低減の為、時代の流れに逆行してサイレントチェーンじゃなくブシュチェーンを採用した事があります。しかしそれは長続きしませんでした。
7)総合的に(vol.1で述べた事をもう少し具体的に)
・軽自動車用エンジンはその市場が日本中心で、且つ遮音にお金がかけられない事などからサイレントチェーンがオススメでしょう。実際現在ではほぼ全ての軽自動車がサイレントチェーンを採用しています。
・大衆車(AセグBセグ等)
これは事情によりどちらかの選択になるでしょう。すなわちコスト(遮音も含めた)と耐久性の比較で、市場を考慮した選択となるという意味です。サイレントチェーンの耐久性を上げたければより高価な表面処理技術も開発されていますし、ローラ/ブシュチェーンのエンジンを含めた静音技術も進んでいますので。
・HEV用エンジン
どちらかというとローラ/ブシュチェーンの方が有利でしょう。HEVの場合使用回転数域が低いのでサイレントチェーンのメリットがあまり顕著で無くなると同時にエンジンに対する予算も限られてくるという事情を考慮してです。またHEVの機構によってはエンジンの逆回転等も起こりやすい事もあります。但し要求される耐久性も低いのでコストさえ抑えられればサイレントチェーンが有利となります。
・高級車
ベンツやBMW等を見ればわかるでしょうが、そもそも遮音が凄いのでサイレントチェーンのメリットが活かしづらく、ローラ/ブシュチェーンのほうが有利でしょう。但しジャガーAJ-V8エンジンのサイレントチ化(ローラーチェーンから)を担当した私の経験から言わせていただくと、かなりサイレントチェーン化は評判が良かったです。遮音技術次第という事でしょうか。